TOPICS014:巨大ポスターをめぐって その① 09.05.2018

「見どころ紹介+ショップ情報」第二回で触れた「巨大ポスターの実物展示」ですが、予告通り「新たなトピック」として掘り下げてみたいと思います。
そこでまず、同じ商品を宣伝する二種類のサヴィニャック作品――

A. 《ペリエ:プシュッと音がする水…》(1951年)
B. 《ペリエ:天然ミネラル炭酸水》(1949/1955年)
を「純然たるイメージ」だけで見くらべた場合、どちらに「大きさ・広がり」を感じるでしょうか。多くの人が「B」に軍配を上げると予測され、その理由も「三手三足の人物が宙に舞うダイナミズム」で一致するに違いありません。身体の動きに加えて、商品を掲げながら「満足そうに笑う表情」や、それによって、あるいはボトルから「溢れ出す泡」の勢いで「吹っ飛ぶ帽子」は、確かに躍動感に満ちています。これに対して「A」は、何よりも「直立して指さす人物」がスタティックであり、「人物-ボトル-噴出する水・泡」のつながり、全体のまとめ方が散漫な印象を受けます。
では、両者を「実際の寸法」で比較してみましょう。

すると、「A」のスケール感に驚きを覚えてやみません。本作は、分割して刷った4枚の紙」を貼り合わせることで、一つのイメージが完成されるポスターに他ならず、それぞれのパーツが「B」と(ほぼ)同寸、しかも日本のポスター用紙の最大サイズB0(H103.0×W145.6cm)を上回っています。さらに、「A」に描かれるボトルを取り出し、観覧者(街中でポスターを眼にする人)との関係で考えるならば、ボトルの高さが約74.1cm、これをポスターの右下に配すると、人々の視点が「ボトル=商品=ペリエ」に集まり、その先端から噴き出す炭酸水を見上げて圧倒される、という仕掛けがあることに気づかされます。つまり、一見したところ単調なイメージが、物理的な大きさによって驚異的に迫力を増すのです。
参考までに、「B」に登場するボトルは、実は現行商品の750mlガラス瓶(約37.4cm)と余り変わらず。こちらは絵柄が変化に富むので、「1枚物」でありながら訴求力は十分、として良いでしょう。もっとも、フランスに代表されるヨーロッパの近代ポスターは、同じイメージの拡大・縮小版が存在し、「A」のような絵柄で小ぶり、逆に「B」の路線で巨大な事例が刷られたのも事実です。ちなみに、フランスで「貼り合わせ式」のポスターが生み出されたのは、19世紀末~20世紀初めのベル・エポック期(ポスターの第一黄金時代)に遡り、アルフォンス・ミュシャ(1860~1939年)らの作品でも見られます。また、街中では、一つのイメージを壁の上で合成するのではなく、同じポスターを何枚も並べて貼る、という素朴な掲出が実践されました。


やがて、ポスターの高度な発展により、
多数のパーツを縦横無尽に構成+その増殖=巨大ポスターが市井を席巻する状況
※多数のパーツ+複数の絵柄=巨大ポスターによるコマ撮りのような効果
に至ります。時あたかも1920年代~1930年代のアール・デコ期(ポスターの第二黄金時代)A. M. カッサンドル(1901~68年)が一世を風靡し、サヴィニャック青春時代のことでした。(続く)

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