TOPICS009:サヴィニャックとともに旅を その③ 19.04.2018

1933年にアリアンス・グラフィック社の下請け、その翌年になると、同社の看板デザイナーの一人A.M. カッサンドル(1901~68年)のアシスタントになったサヴィニャックは、自身の将来を見据えて、フリーランスの仕事も引き受けるようになります。しかし、理論・実務を学びながらの活動は、1938年の冬に終止符が打たれました。カッサンドルがアメリカへ渡ったからです。
カッサンドルの紹介により、ポスター下絵師・図案家として職を得たドラジェール兄弟印刷所も(在職1938~39年)、第二次世界大戦に伴う従軍で辞めざるを得ず、「ポスター作家 サヴィニャック」のキャリアは、除隊後の1940年以降、実質的には《牛乳石鹸モンサヴォン》(1948/1950年)の登場をもって本格的にスタート、という紆余曲折を経ました。
よって、カッサンドル風の「旅物」ポスターは、創造の糧になったとは言え、1940年代後半には姿を消し、やはり鉄道会社がクライアントであっても、およそ趣の異なる、つまり「サヴィニャックらしい」ものに置き換えられていきます。
本展で注目したいのは、フランス国有鉄道(SNCF)「お得な切符」シリーズ(1964年)。同じ構図・文字情報による「ムッシュ編」「マダム編」は、両者の対比と、並べて掲出した時の効果、個別で見ても「半額料金」を示唆する「右半分のみ描いた人物表現」が印象的です。

今回は、二つのポスターの「原画下絵」も出品されているため、これらとの比較も可能であり、「アイディア・スケッチがポスターとなるまで」の工程を窺い知ることができます。

作家、国・地域、時代、技法などで異なるので、あくまでも「フランスの近代ポスターに顕著な一つの方法」として記すと、
①アイディア・スケッチ
②ポスター原画の下絵=「絵」が主体
③ポスター原画=「文字」をアタリで添える
④製版用のポスター原画=「文字」「ロゴマーク」などを正確に入れる
⑤製版
⑥印刷
⑦ポスター
の流れで制作され、サヴィニャックの場合、①②③は自ら手がけ、④以下の工程は美術印刷所の現場にお任せ、もしくは簡単な確認で済ませた可能性が高い、として良いでしょう。②と③、③と④の間には、絵柄の拡大(縮小のことも)トレースがあるので、方眼紙やグリッドを引いた紙が用いられ、あわせて製版・印刷に見合った細部の省略、文字やロゴマークとのバランスを鑑みた修正を行い、クライアントの最終チェックを受けて、版を作り、ポスターが刷り出されます。このような工程があるからこそ、「お得な切符」シリーズにおいては、
*人物の表情・プロポーション:原画下絵は可愛らしく、ポスターは重々しい
*同・服装:原画下絵は合服、ポスターは冬服
の点で、かなりの相違が見られます。どちらも「サヴィニャックの作品」ですが、後者に現場の判断と、クライアントの意向が反映されているのは確かです。(続く)

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