TOPICS010:サヴィニャックとともに旅を その④ 23.04.2018

この連載トピックスの第一回第二回第三回では、「鉄道」がテーマのサヴィニャック作品を取り上げました。鉄道というものは、基本的には安全・正確・快適、時には高速な「移動の手段」であるのみならず、「旅の演出」に関する創意や工夫が求められ、これらを踏まえて、優れた車両、駅舎、サーヴィス、広告などが導かれます。ちなみにフランスは、サヴィニャックの時代以前から今日まで、鉄道の充実度が高い国の一つです。
一方、フランスの「自動車」も、産業の力とデザイン面で世界的に知られています。サヴィニャックからすると、ルノーシトロエン(母国の自動車メーカー)は、戦後の重要なクライアントですが、自らハンドルを握り、のどかな「クルマの旅」を楽しんだ経験が、ポスター制作に活かされた、として良いでしょう。その珠玉――カジュアルでおしゃれ、しかも「フランスらしいスタイリング」の小型大衆車と、サヴィニャックによる「フランスらしいグラフィズム」の見事な合致は、《ルノー4》(1963年)に見て取ることができます。

本展では、「野山を駆ける赤いハッチバック」の姿で描かれる「4」(キャトル/愛称=キャトレール)ポスター、原画、再制作のデザイン画、巨大絵画が出品され、いずれも興味が尽きません。

  

特に、ポスターよりも大きい「絵画」は、美術作品ではなく、ポスターのイメージを拡大したディスプレイ・グラフィック(自動車の展示会の背景画)ではないか、と推測されます。

本展監修者のティエリー・ドゥヴァンク氏(パリ市フォルネー図書館学芸員)は、「R4」という文字情報の右下の「山の頂上」が、
*原画では丸い
*ポスターは「印刷のかすれ」で生じた「くぼみのあるかたち」を呈する
*この「偶然の形状」まで「なぞった」のが巨大絵画
しかし、フランスは火山が少ないことや、原画には見られないディテールである点に留意すべき、と指摘します。すなわち、サヴィニャックのポスターを手本としたディスプレイかも知れない、というわけです。事実、ポスターに基づくサヴィニャック自身の再制作(デザイン画)を見ると、山頂はくぼんでおらず、なだらかな丸みを帯びているのです。さらに、大きな「絵画」が「自動車の展示会の背景画」だとしたら、という仮定で、「4」の実車と比較してみると、クルマの方が60cm以上長い計算になります。また、実際の車高は、サヴィニャックのイラストレーションよりも低いプロポーションです。言い換えると、実車に比べて「愛らしく」表現することで、赤いハッチバックの「フランスらしさ(特徴・魅力)」を、より多くの人々に、より分かりやすく伝える意図があったのかも知れません。(続く)

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当館での本展は、いよいよ4月29日に始まります。開幕に向けての準備もたけなわで、美術館の建物回り、周囲の緑の中には、サヴィニャック作品を用いたサインがいくつも掲出されています。《ルノー4》(1963年)は、もちろん登場しました。

このポスターのように、「サヴィニャックとともに“野山”の旅を」味わい、宇都宮へのドライヴも楽しんでいただければ幸いです。交通案内は、こちらをご覧ください。

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