建造物めぐり⑱盛岡聖公会二代礼拝堂

バーガミニと上林敬吉の協働

 ジョン・ヴァン・ウィー・バーガミニ上林敬吉は、昭和初期の短い期間に集中して、鉄筋コンクリート造の白い礼拝堂群を各地で生み出しました。

[下図]聖オーガスチン教会礼拝堂の定礎は1929年(昭和4)8月で、聖別が12月でした。同年7月には、盛岡聖公会二代礼拝堂も着工し、やはり12月に聖別式を挙げています。

聖オーガスチン教会礼拝堂(現・日本聖公会 高崎聖オーガスチン教会礼拝堂)ポーチ 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 これらに関しては、あまりにも年代が連続的なうえ、物理的に離れた場所にあり、設計図書や工事記録が必ずしも完全に残されていないため、建築家の特定、関与の度合いが曖昧にされがちでした。バーガミニが基本設計、上林は実施設計という体制について、両者の役割をめぐる誤解が多いのも事実です。よって本展の調査研究においては、そのことの解明に注力しました。

郡山聖ペテロ聖パウロ教会礼拝堂(現・日本聖公会 郡山聖ペテロ聖パウロ教会礼拝堂)北立面図(部分)1931年 所蔵・画像提供:日本聖公会 郡山聖ペテロ聖パウロ教会礼拝堂

 結果、米国聖公会伝道局と日本聖公会の指針、教区と伝道拠点の意向に沿ってバーガミニが基本計画を立て、上林と二人で基本設計を考え、図面が上林に委ねられたのは疑いようがないと推論しています。各段階の図面はすべて「上林建築事務所」と記され、おおむね英語で綴られました。

盛岡聖公会二代礼拝堂

 盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)の場合、ノーマン・スペンサー・ビンステッド日本聖公会東北地方部主教の指名により、バーガミニが基本設計を担い、その計画に基づき、上林敬吉が実施設計と現場監理を進め、基本設計の不備を補いながら、教会の要望に応える礼拝堂を完成した事実が教会史で辿れます。

[下図]画面中央、上着に蝶ネクタイの人物が上林敬吉です

盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)建築工事 1929年撮影 盛岡聖公会宣教100周年記念誌編集委員会 編(2008)『日本聖公会東北教区 盛岡聖公会宣教100周年記念誌:じゅびらぁてⅣ(歓ばしき声をあげよ)』盛岡:盛岡聖公会宣教100周年記念誌編集委員会 所収 所収文献所蔵・画像提供:日本聖公会 盛岡聖公会

 教会には、建築工事の記録写真、「K・上林」と記された実施設計図一式も保存されています。写真には上林が登場し、図面を見ると、基本設計と実施設計のすみ分け、上林の緻密な仕事ぶりがよくわかります。
 盛岡のように教会史、設計図書や工事記録が完全に残る事例は少ないですが、他の礼拝堂も同様の効率的な分業、標準化されたスタイルにより、全国で次々と実現されました。

盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)内部 2022年撮影 撮影:church2023.jp
盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)模式図 作図:church2023.jp

 一連の礼拝堂群は、単廊式の身廊と、会衆席から見て高く、奥まった内陣を基本形とします。平面は二通りで、第一は、塔屋を翼廊として張り出させるか、身廊側面のどこかに付すタイプ、二つ目は、本礼拝堂に代表される内陣、身廊、塔屋が一直線に並ぶものです。いずれにせよ礼拝準備室は、機能と意味合いに照らして内陣に近く、オルガン空間がどちらかの翼廊を成します。

[下図]盛岡の採用配置案は、礼拝堂の短辺が道路に面するものとなりました

盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)[左]採用配置案 盛岡聖公会 編(1959)『盛岡聖公会五十年小史:じゅびらぁて』盛岡:盛岡聖公会 所収 所収文献所蔵・画像提供:日本聖公会 盛岡聖公会[右]2022年現在の配置 作図:church2023.jp

 [下図]採用されなかった別案は、礼拝堂と道路が平行でした

盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)別の配置案 盛岡聖公会 編(1959)『盛岡聖公会五十年小史:じゅびらぁて』盛岡:盛岡聖公会 所収 所収文献所蔵・画像提供:日本聖公会 盛岡聖公会

 盛岡については、道路、敷地、他の施設との関係で、一直線形の平面になった経緯が判明しています。最初期には礼拝堂と道路が平行、つまり東西に長く、入口を西(西北西)、内陣は東(東南東)に置く案も検討されました。

盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)建築工事 1929年撮影 盛岡聖公会宣教100周年記念誌編集委員会 編(2008)『日本聖公会東北教区 盛岡聖公会宣教100周年記念誌:じゅびらぁてⅣ(歓ばしき声をあげよ)』盛岡:盛岡聖公会宣教100周年記念誌編集委員会 所収 所収文献所蔵・画像提供:日本聖公会 盛岡聖公会
盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)東南東側全景 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 玄関右の応接室(木造モルタル仕上)は、バーガミニの基本設計にはなく、鉄筋コンクリート工事の記録写真でも見当たりません。これを上林が実施設計で加え、人々の便宜に供したのです。

盛岡聖公会二代礼拝堂(現・日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂)身廊入口の高窓 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 バーガミニと上林のモダン・アングリカンを特徴づけるディテールは、礼拝堂内外の随所に窺われ、塔屋、水切りのある控え壁、開口部、飾り迫縁の意匠、シザーズ・トラス(鋏形洋小屋)の造り、チューダー・アーチ(四心尖頭アーチ)による空間の分節などは、共作の「白い礼拝堂群」に共通して見られます。☞ポーチとシザーズ・トラスは、語句解説③を参照

盛岡聖公会二代礼拝堂の建造物概要
●今日の名称(所在地)
日本聖公会 盛岡聖公会礼拝堂(岩手県盛岡市中央通)
●年代
聖別1929年(昭和4)
●設計・施工者
ジョン・ヴァン・ウィー・バーガミニ(基本設計)、上林敬吉(実施設計)、桂島組(施工)
●工法・構造
鉄筋コンクリート造平屋建、一部木造、3層塔屋付
●様式
モダン・アングリカン
●教派
聖公会