展覧会のスタートまで、いよいよ二週間余となりました。ついては、大谷石にまつわる様々なトピックスとともに、展覧会の見どころ紹介も少しずつ進めたく、まずは「岩石標本」から始めたいと思います。
大谷石と大谷層
「大谷石」は、地質学の分類では、火山の噴出物が緻密に固まった「凝灰岩」に分類されます。今からおよそ1,500万年前の海底火山に由来するもので、その軽石流が大量に堆積し、長い年月を経て岩石となりました。大谷石を生み出した火山活動は、日本列島の誕生とも深く関わっています。ユーラシア大陸の一部が割れ、東方へ分離・移動する地殻変動に伴って大きな窪みが生じ、現在の日本海が形成され、海底にあった多くの火山が爆発したのです。
大谷石を始めとする凝灰岩は、北海道から東北・中部・北陸・山陰の日本海側、甲信越地方から伊豆半島にまたがる「グリーン・タフ(緑色凝灰岩)地域」に分布しています。日本海沿岸に広がるグリーン・タフ地域は、北関東にも入り込んでおり、その最南端に栃木県の一部が位置するため、県内には、大谷石のほか、さまざまな凝灰岩が産出します。
地質学と採石産業の大谷石の定義は、必ずしも一致しません。と言うのも、大谷石を産する「大谷層」は、かなりの深度があり、面的にも大谷地区の周縁まで広がっているからです。
よって、層の深さごとに異なるタイプの石が採れ、大谷地区から少し離れた市内でも、大谷石に似た凝灰岩が観察されます。たとえば、宇都宮美術館がある長岡町の地質は、大谷地区と共通し、かつては大谷石と同じように、土木・建築・生活に供した長岡石の産地でした。
必見の岩石標本
本展の「序章:大谷石の地質学、石にまつわる風土と信仰」では、宇都宮大学農学部 地質学研究室の協力を得て、担当学芸員が自ら「大谷層」で採取した当地の岩石サンプルを展示します。
もちろん、アクセス可能な露頭地点は限られており、また、自然科学の展示ではないため、すべての層を徹底採取したわけではなく、サンプルの種類も限られていますが、大谷石を「地質学」の視点で概観するための「入門展示」としてご覧いただければ幸いです。
さらに詳しく知りたい方は、1月8日から当館で販売する展覧会図録に収録した相田吉昭先生(宇都宮大学教授 農学部地質学研究室)・酒井豊三郎先生(宇都宮大学名誉教授)の共同執筆テキスト「大谷石の作る景観と地質――大谷層の成り立ちを探訪する」を是非ご一読ください。