前回より続く
「あばたもえくぼ」の蜂ノ巣
原石や風化した状態では、顔色がさえないあばた面――赤み・黄味を帯びた灰色を呈し、中を割って見ても小さな穴だらけの「菩提石」は、さまざまな理由により、「幻の石材」とされて来ました。現在は、採石すら行われていません。
その特徴的な形状から、「蜂ノ巣」とも呼ばれたこの石を求めて、かつての産地だった石川県小松市菩提町を訪ねると、それが「幻である理由」をリアルに知ることができます。集落のはずれに建つ花山神社
http://www.ishikawa-jinjacho.or.jp/search/detail.php?e7a59ee7a4be4944=721
の石灯籠で明らかなように、決して「美麗」ではなく、むしろ「珍重」な石という印象を受け、小さな「蜂ノ巣」の塊をご自宅の前に飾っておられた地元の方に伺うと、「昔は細工物に使われたけれど、とうに出なくなったし、建材向きではないねえ」とのこと。また、現地で黄菩提の原石を発見し、それを掘り出していると、近所の人が「そんな不細工な石どうするの? この辺ならばヒスイやメノウだって見つかるのに!」と笑っておられました。
ともあれ、小松市立博物館
http://www.kcm.gr.jp/hakubutsukan/
を始め、多くの皆さんのご協力を得て入手した石を宇都宮へ持ち帰り、
ダイヤモンド・カッターで裁断・研磨し、きれいに洗浄すると…
その断面に驚かされました。深い鮮紅色の美しい斑紋が浮かび上がったからです。
「ライト館」に相応しいのは
本展に於いて、なぜ「遠い他山の蜂ノ巣」にこだわるのか、それは「旧・帝国ホテル ライト館」
に採用されたかも知れない、という指摘に迫り、実際に使われた大谷石と実証学的に比べるために他なりません。
『本邦産建築石材』(1921年)を読むと、当時の比較で、
坑区面積: 大谷石=水田丸石+滝ヶ原石+菩提石の50~70倍
総埋蔵量: 大谷石=水田丸石+滝ヶ原石+菩提石の6,000倍
年産出量: 大谷石=水田丸石の833~1,000倍、滝ヶ原石の167倍、菩提石の6,250~7,143倍
と、大谷石が圧勝していることが分かります。
採石の容易さ、最寄の鉄道駅への便、そこから中継地を経て東京への距離でも、大谷石に軍配が上がるのは言うまでもありませんでした。
『日本産石材精義』(1931年)では、水田丸・滝ヶ原・菩提石を一項目にまとめ、三種のなかで唯一、長材を得ることが可能、という観点から、ライトが菩提石(蜂ノ巣)を帝国ホテルで使おうとした、と締め括っています。
以上を踏まえ、「現物の石」を見比べながら、鉄筋・煉瓦コンクリート造、簾煉瓦・石張り、部分的にテキスタイル・ブロックも装飾的に用いた「ライト館」に相応しいのは、一体どんな石材なのか、展示を通じて考えたいと思います。
ちなみにフランク・ロイド・ライト自身は、アメリカで「ライト館」の正式な設計依頼を受けた二年後の1918年(大正7)、「石の国 NIPPON」に再来日を果たし、材料選びに当たって、当時の支配人・林 愛作の計らいにより、「国会議事堂計画のための全国石材調査」(調査結果とサンプル)を密かに検分した、と言われています。
…このお話は、さらに次回へと続きます。