お天気に恵まれた去る10月30日(日)、本展の「先行関連事業」の皮切りとなる「さと歩き」
./%E9%96%A2%E9%80%A3%E4%BA%8B%E6%A5%AD%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6/#01
が開催されました。
さと歩きワークショップ「石の里・大谷を探訪する」概要
[日時] 2016年10月30日(日)午前10時~午後4時
[会場] 大谷界隈
[講師] 相田吉昭氏(宇都宮大学農学部教授)、橋本優子(宇都宮美術館 主任学芸員)
[スタッフ] 宇都宮大学農学部 地質学研究室 大学生2名、小堀修司(宇都宮美術館 学芸員)
[参加人数] 30名(事前申込制)
[内容] 大谷石を産する「石の里・大谷」(宇都宮市大谷町・田下町・田野町)を訪れ、石の誕生、地形と風土の特質を地質学の観点から実地で学びました。
●10:00~12:00 午前のさと歩き
観察地点01=大谷景観公園バス停の南方の崖、ユニットIV層(Unit IV)の軽石凝灰岩、Unit V層上部
観察地点02=大谷景観公園バス停前の駐車場、ユニットIV層(Unit IV)の軽石凝灰岩
観察地点03=大谷景観公園バス停西側の崖、ユニットIV層(Unit IV)の軽石凝灰岩
観察地点04=V層上部~Stop 4:大谷景観公園が面する道路沿いの崖、ユニットIV層(Unit IV)の軽石凝灰岩
観察地点05=道路沿いの崖、ユニットV層上部(Unit Vup)の軽石凝灰岩
観察地点06=道路脇の崖、ユニットV層上部(Unit Vup)の軽石凝灰岩
観察地点07=燈籠先、側道の脇、ユニットS2層(Unit S2)の砂岩泥岩互層
観察地点08=田野町、293号線沿いの住宅裏、ユニットVI層(Unit VI)の砂質凝灰岩層
観察地点09=田野町、293号線沿いの住宅裏、ユニットVI層(Unit VI)の砂質凝灰岩層
観察地点10=燈籠先から大谷へ至る狭い道路沿い、ユニットV層下部(Unit Vlo)の軽石凝灰岩
●12:00~13:00 休憩・昼食
観察地点11=大谷景観公園
●13:00~16:00 午後のさと歩き
観察地点12=平和観音、ユニットIV層中部(Unit IV)の軽石凝灰岩
観察地点13=立岩、ユニットIII層(Unit III)およびユニットII層(Unit II)/III層(Unit III)境界
観察地点14=休憩・講評、大谷資料館見学
石尽くし・地層まみれの一日
午前中は、面的に広がる大谷層の露頭を地点ごとに観察し、参加者自身がハンマーを手に、サンプルの採取を行っています。それをルーペでじっくりと眺めたり、方位磁石を使って地層の向きや傾きも計りました。講師を務めた相田先生のお話、先生がまとめられた「観察地点ごとの解説」「大谷層の層序概要」は、専門的な内容でありながら非常に分かりやすく、午後の部になると、どの参加者も「層の見分け方」「その特徴」について詳しくなり、「あれはユニット○○ですね」「ミソの入り方が…」といった会話が飛びかっています。
昼食も、姿川を挟んで両側に大谷層の崖が連なる景観を見ながら、そして最後は、かつての石切場だった大谷資料館を訪れ、まさに「石尽くし・地層まみれ」の充実した秋の日となりました。
諸説ある「ミソ」の形成
今回、相田先生から伺ったお話、当日配布した資料のなかで、とても興味深かったのは、大谷石の特質である「ミソ」に関する諸説です。ここでは、応募者多数につき、残念ながら抽選で当たらなかった方、諸般の事情により、参加を見送られた人、そして本サイトを通じて、「大谷石」に興味を向けられている皆さんに、それらをご紹介しましょう。
「…大谷石の軽石凝灰岩中には「ミソ」と呼ばれる楕円形をした粘土質の変質部が含まれ、その主要な構成鉱物は鉄モンモリロナイトやクリノプチロル沸石などの粘土鉱物です。(神山ほか, 1972)
神山ほか(1972)によれば、地下採掘場の母岩から切り出した新鮮な試料では、Fe成分はFe2+であり、青緑~濃青色を呈しますが、空気中に放置すると短時間で酸化されFe3+に変化し、黒色から褐色に変色することが報告されています。空気にさらされた自然状態の「ミソ」には、繊維状構造を持つものも見られます。
「ミソ」「みそ」を作る元々の岩石の成因については、従来から様々な成因が数多く提唱されています。
①「みそ」は、火山弾の粘土化したものである。(太田, 1949)
②「みそ」は、火山弾が捕獲されて粘土化したものである。(入江, 1957)
③「みそ」は、浮石質火山ガラスを主な構成物質とし、堆積当時比較的短い間に海水との反応によって生じたものである。(『大谷採石地域地質調査報告(昭和38年度)』, 東京通商産業局, 1963)
④「みそ」は、海底火山が噴火して堆積時に火山灰中の鉄マグネシウム鉱物(黒雲母・輝石・角閃石)がケイ酸アルミ質の環境下で分離集合し、溶結過程で変質したものである。(安藤・岡, 1967)
⑤「みそ」は、軽石を含んだ凝灰岩の中で粘土化の進んだ部分が褐色化したもので、風化作用の結果欠落して「みそ跡」となった。(下野地学会編 『栃木の地質をめぐって』 1979, 築地書館)
⑥「みそ」は、軽石の粘土化により褐色となった変質部である。(中村ほか, 1981)
⑦「みそ」と呼ばれる褐色の変質部分が多数含まれます。これらは軽石の粘土化したもので、風化が進むとぬけ落ちて大小の穴が残ります。(青島睦治 『栃木の自然をたずねて』 p.220, 1997, 築地書館)
⑧「ミソ」は、扁平な軽石であり、風化して空洞となる。(上記②⑥説の紹介。吉川ほか, 2010)
⑨「みそ」は、大粒の繊維状軽石が風化して抜けた跡が「みそ」と呼ばれる。(高橋直樹・大木淳一 『石ころ博士入門』 2015, 全国農村教育協会)
⑩掘り出される前の大谷石。穴はありません。目立つのは黒っぽいシミ。これは火山灰に紛れ込んだ木の破片などの不純物だと言います。このシミがやがて「みそ」になるのです。削った時の大谷石の一面に、シミが点在しています。この柔らかいシミの部分が風雨にさらされ洗い流されたのです。(NHK Eテレ「美の壷」 file202「大谷石」
http://www.nhk.or.jp/tsubo/program/file202.html
※この説は怪しい)
⑪「ミソ」の元は、安山岩質~玄武岩質のスコリアもしくは火山砂であり、新鮮な切りたての状態では青緑色で、年代とともに黒色から褐色に変質が進む。繊維状構造を残す「ミソ」が残っているのが観察できる場合がある。」
text (C)Yoshiaki Aita + Laboratory of Geology, Utsunomiya University + Utsunomiya Museum of Art