発見部

宇都宮美術館友の会 発見部のご案内

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活動報告

令和2年度は新型コロナウイルス感染拡大のため各種の事業が中止となりました。
また、令和3年度は宇都宮美術館において長期休館が予定されているため、友の会の事業も縮小をしております。ご了承ください。

美術講演会/館長講座「エゴン・シーレ≪家族≫(1918年)を巡って」
令和3年5月15日(土) 講師 宇都宮美術館館長 佐々木吉晴氏

 「エゴン・シーレ≪家族≫(1918年)を巡って」との演題で宇都宮美術館館長佐々木吉晴氏を講師に60名の参加者を得て美術講演会を開催しました。
 講座は作品画像を使いながら彼の経歴、作品、画風の変化、そして死の直前、最後の大作となった≪家族≫についてシーレが生活をともにしたモデルのヴァリ・ノイツェルと妻のエーディト・ハルムスのふたりの女性との出会いと別れを辿りながら丁寧に進められました。
 エゴン・シーレはグスタフ・クリムトと共にウィーン分離派を代表する画家です。独自の画風を確立し、水彩や素描を含めると数千点と言われる沢山の作品を残しましたが、絵を描いていた時間はおよそ10年。その生涯はあまりにも短く、そして濃密なもので、28歳の時、折から猛威を振るっていたスペイン風邪で妊娠6か月の妻を失い、その3日後に妻と同じ病でこの世を去りました。
 シーレは17歳の時にクリムトと出会い、彼の庇護のもとに大きな影響を受けました。そんなシーレは20歳の頃には、クリムト的な装飾性は薄れ、より構成的で、心理的で、寓意的な表現が強調され、鋭い線が特徴的な独自のスタイルを見出します。
 1915年25歳のシーレはエーディト・ハルムスと結婚、そしてその後の従軍経験はシーレにもう一つの転機を与えたようです。この頃から、これまでの人物が歪み、苦痛や腐敗や死を感じさせる画風から、作品には落ち着きと充足が感じられるようになります。この時期に描かれたのが≪家族≫(1918年)です。シーレが手に入れたかった家族のあり方を表現した作品と言われている≪家族≫に描かれた3人は、シーレと妻のエーディトそして生まれることのなかったふたりの子。全員がリラックスした自然なポーズ。美しい妻エーディトを後ろから抱いているシーレは穏やかにそしてスッキリした表情に描かれています。結婚して初めて子供ができ、よろこびや安らぎ、幸福・未来への希望などとともに聖家族を思わせる構図、柔らかな線、複雑に組み合わされたボリューミーな色彩にシーレの到達した世界が顕われています。
「家族」を得て、それまでとは違う絵画の世界を見つけ、その表現の成果を後世に残すことなく突然の死を迎えてしまったシーレ。100年前のスペイン風邪パンデミックで妊娠中の妻を、そして自身も犠牲となったシーレ。その後、どんな世界を見せてくれたのかと想像すると悲しくまた残念でなりません。
 新型コロナウイルスが世界中に蔓延する現在、多くの人々が罹患し、亡くなられる世相を見ると夢や幸せ、様々な才能が失われているパンデミックが早く収束することを願わずにいられません。   

(発見部 渡辺卓)