建造物めぐり⑧日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂

大谷石の聖堂・礼拝堂・会堂

 本展の主役であるカトリック松が峰教会二代聖堂日本聖公会 宇都宮聖ヨハネ教会礼拝堂は、ともに近代工法の鉄筋コンクリート造(RC造)・大谷石張を採用した昭和戦前の教会建築です。そこで今回は、展覧会図録(記念出版)を組み立てるに当たり、同時代と、先行する明治・大正年間に建造された大谷石の聖堂・礼拝堂・会堂にも眼を向け、調査研究を深めています。
 その結果、興味深い事実が浮かび上がりました。すなわち、
 1. 大谷石の広域な輸送経路の確立
 2. 伝統的な石蔵とは異なる大谷石の石造・石張工法の確立
 3. 木骨石造・煉瓦造からRC造への移行、これらと大谷石の組み合わせ
 4. 教会建築の構造・意匠材としての大谷石に対する近代建築家の興味
 5. 明治政府の全国石材調査、フランク・ロイド・ライトの帝国ホテル ライト館、関東大震災と震災復興など、世の中の動きと大谷石の関わり

の五つの観点から、用途の聖俗を問わず大谷石の近代建築は、大正年間・昭和初期に集中して建てられたことが判明したのです。ただし集散地の宇都宮の場合、明治末期にも事例が見られます。
 このうち、何らかのかたちで大谷石を用いた聖堂・礼拝堂・会堂は限られ、その最初期の事例が「二つの教会の歩み」で触れた宇都宮天主公教会初代聖堂(建造1895~1904年頃、現存せず)、宇都宮聖約翰教会仮礼拝堂兼園舎(聖別1912年、現・学校法人聖公会北関東学園 認定こども園愛隣幼稚園大谷石園舎)です。 

[上]宇都宮天主公教会初代聖堂 1904年頃撮影『聲』313号(1904年6月)東京:三才社 所収 所収文献所蔵・画像提供:上智大学図書館[下]宇都宮聖約翰教会仮礼拝堂兼園舎(愛隣幼年園第一回卒園式記念写真)1913年撮影 所蔵・画像提供:日本聖公会 宇都宮聖ヨハネ教会

 ちなみに関東大震災後に登場したRC造・大谷石張の教会建築の嚆矢は、「建造物めぐり」の5回目で取り上げた横浜クライスト・チャーチ三代礼拝堂(聖別1931年、ジェイ・ハーバート・モーガン設計)でした。

横浜クライスト・チャーチ三代礼拝堂(現・横浜クライスト・チャーチ/横浜山手聖公会礼拝堂)全景 1931年頃撮影(竣工当時)根谷崎武彦(2012)『クライストチャーチと横浜山手聖公会の150年:第22回聖公会歴史研究会資料』和光:根谷崎武彦 所収 所収文献所蔵・画像提供:横浜クライスト・チャーチ/横浜山手聖公会

 それから宇都宮天主公教会二代聖堂(聖別1932年、マックス・ヒンデル設計)、宇都宮聖約翰教会礼拝堂(聖別1933年、上林敬吉設計)が現れるという時系列になります。

[上]宇都宮天主公教会二代聖堂 全景[『宇都宮教会献堂式記念絵葉書』より「宇都宮教会正面」(部分)]1932年撮影 所蔵・画像提供:カトリック松が峰教会[下]宇都宮聖約翰教会礼拝堂 全景 1933~1934年撮影 Episcopal Church, Domestic and Foreign Missionary Society ed. The Spirit of Missions. (May, 1934) Burlington: J.L. Powell. 所収文献所蔵・画像提供:立教大学図書館

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂

 これら以外では、まず関東大震災が起こる前の大正年間に建造された日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(献堂1917年、吉武長一設計)が挙げられ、現存する大谷石の教会建築として貴重です。

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)全景 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 西北西に聖壇、東南東妻壁にステンドグラス、その西南西角に玄関を兼ねた塔屋を擁する本会堂の場合、明治初期に編み出された木骨石造を採用し、西洋式の木の軸組構造に大谷石を積み上げ、控え壁の水切りなど要所には小松石を用いました。

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)全景 1917年撮影 安藤記念教会七十年史編集委員会編(1987)『安藤記念教会七十年史』東京:日本基督教団安藤記念教会 所収 所収文献所蔵・画像提供:日本基督教団 安藤記念教会

 軟らかい灰緑色の大谷石(栃木県産の凝灰岩)の表面には、手掘時代(江戸年間~1950年代)の石材を特徴づける力強い「つるはし痕」が刻まれ、硬質で黒っぽい小松石(神奈川県産の安山岩)との構造的なすみ分け、視覚的な対比が明らかです。

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)南南西側面 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 妻壁、塔屋などの意匠はゴシックを基調とするものの、マックス・ヒンデル宇都宮天主公教会二代聖堂ロマネスク・リヴァイヴァル)、上林敬吉宇都宮聖約翰教会礼拝堂(モダン・アングリカン)と比較するならば、より自由度の高いスタイルを標榜します。

[下図]躯体を成す大谷石のうち、くすんだ色合いのものが建造当時の古い石材、より明るいものは文化財修復で交換した新しい石材、塔屋の控え壁の水切り、開口部回りなどに見る黒い石材が小松石です。ステンドグラスを嵌めた高い妻壁(画面右側)は、耐震強度に鑑みて、大谷石積を模した人工素材の復元部分となります。

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)東南東妻壁 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 鋭角な切妻屋根の支持構造はシザーズ・トラス(鋏形洋小屋)ですが、下弦材に取り付けた天井で小屋組を隠し、天井と壁が漆喰仕上のため、内部は清楚で明るく、広々とした印象を与えます。聖壇手前には一体的な造りの木製垂れ壁と恵の座を設け、両者は二本の柱で結ばれています。

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)内部 2022年撮影 撮影:church2023.jp

 日本近代のステンドグラス工芸を確立した小川三知の大ステンドグラスも見どころの一つです。

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)東南東妻壁のステンドグラス 2022年撮影 撮影:church2023.jp

石づかいとディテール

 吉武長一の本会堂(献堂1917年、プロテスタント教会、木骨石造)と、冒頭で挙げたジェイ・ハーバート・モーガンの横浜クライスト・チャーチ三代礼拝堂(聖別1931年、聖公会、RC造・大谷石張)の石使い、ディテールに注目すると、時代、教派と工法の違いにも増して、大谷石に対する近代建築家の異なる視点が窺われるとしてよいでしょう。

[左]日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)塔屋[右]横浜クライスト・チャーチ三代礼拝堂(現・横浜クライスト・チャーチ/横浜山手聖公会礼拝堂)塔屋 ともに2022年撮影 撮影:church2023.jp
[左]日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂(現・日本基督教団 安藤記念教会会堂)南南西側面の窓[右]横浜クライスト・チャーチ三代礼拝堂(現・横浜クライスト・チャーチ/横浜山手聖公会礼拝堂)南西側面の窓 ともに2022年撮影 撮影:church2023.jp

日本メソヂスト教会 安藤記念教会会堂の建造物概要
●今日の名称(所在地)
日本基督教団 安藤記念教会会堂(東京都港区元麻布)
●年代
献堂1917年(大正6)
●設計・施工者
吉武長一(設計)、柏木菊吉(施工)、小川三知(ステンドグラス制作)
●工法・構造
木骨大谷石・一部小松石造平屋建、3層塔屋付
●様式
特定の様式によらない(ゴシックを基調とする)
●教派
プロテスタント教会(メソジスト)